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「……本の捨て子は、元の持ち主の処へ帰っていった、か」
ゆっくりとせあらの方へ顔を向ける。
「”せあら”は、母親が可愛がっていた猫の名前だったな、」
せあらは自分の心臓の顫えを聞いた。
その猫の名前を、父親は自分の息子に名附けた。きっと、何でも良かった。
この世界に生まれ落ちた瞬間に、自分は捨てられていた。今、此処に自分がいるのは、拾ってくれたひとがいるからだ。
「あの本の続き……だがな、」
「は、」
はい、と、せあらは頷く。書き上がったのだろうか。だが神の表情は渋い。
「どうにも上手く書けないんだ」
ああ、だからこのところ彼は悩んで、苛立っていたのか。せあらは合点する。
「どうすればせあらの気に入るような続きが書けるのか、判らなくてな」
神は重苦しげな溜息を吐く。
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