4:本の捨て子

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「以前は、思うように書いていればそれで良かった。失敗しても、下手でも、それはそれで良しと思えた。だがこの頃は、自分の未熟さ、才の無さに、心底腹が立つ。せあらは本当にあの物語を愛してくれるようだったから、おのれの未熟さ故にその気持ちを裏切るようなものを書いてしまったら、どれほど哀しませてしまうのだろうと思うと、心底身顫いがする」  顔はせあらの方を向きながら、睛は床を見つめていた。 「書くのが可怕(こわ)いだなんて、こんなことは、はじめてだ」  こんなに気弱なことを云う(ジン)を、せあらが見るのも、はじめてだった。 「ま、」  待ちますよ。せあらは答えた。いつまででも、待ちます。  それに、と、続ける。  自分は、神の書くものなら、何でも読みたい。どんなものでも、神が心のままに書いたものが、読みたい。  自分が読みたいのは、神がその純粋な思いで書いた物語なのだ。 「……そうか」  神の顔つきが、穏やかなものに変わる。はい、と、せあらは頷く。
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