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お客さんが全員帰ってしまうと、せあらは簡単に後片附けをする。原稿用紙に向かっていた神が、背伸びをして立ち上がった。
「終わったか、」
「は……、」
はい。せあらが頷くと、神も頷きを返した。
「腹が減った」
と、頸条を掻く。執筆の間は、基本的に神はものを食べない。集中の妨げになるのだろう。
「ケーキでも食べるかな」
ほんのり浮かれ気味の冗談に、せあらはふふと笑った。あれから行き詰まりは解消して、良く書けたようだ。
二人は館内の電気を落として、外に出た。せあらが鍵を掛け終えると、神は云った。
「温室に棲まう一角獣の幻想は佳かったな」
せあらは振り向いて神を見上げた。
「おかげでひと息に五枚書けた」
得意そうな口ぶりが、微笑ましかった。
「そ……、」
それは、良かったです。
せあらが答えると、神も目を繊めて微笑んだ。
収穫のある日は、疲れも心地好さとなる。二人は寝ぐらである隣りの洋菓子店の二階へと帰った。
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