1:ケーキ! ケーキ! ケーキ!

20/65
前へ
/228ページ
次へ
 お客さんが全員帰ってしまうと、せあらは簡単に後片附けをする。原稿用紙に向かっていた(ジン)が、背伸びをして立ち上がった。 「終わったか、」 「は……、」  はい。せあらが頷くと、神も頷きを返した。 「腹が減った」  と、頸条(くびすじ)を掻く。執筆の間は、基本的に神はものを食べない。集中の妨げになるのだろう。 「ケーキでも食べるかな」  ほんのり浮かれ気味の冗談に、せあらはふふと笑った。あれから行き詰まりは解消して、良く書けたようだ。  二人は館内の電気を落として、外に出た。せあらが鍵を掛け終えると、神は云った。 「温室に棲まう一角獣の幻想(イメージ)は佳かったな」  せあらは振り向いて神を見上げた。 「おかげでひと息に五枚書けた」  得意そうな口ぶりが、微笑ましかった。 「そ……、」  それは、良かったです。  せあらが答えると、神も目を繊めて微笑んだ。  収穫のある日は、疲れも心地好さとなる。二人は寝ぐらである隣りの洋菓子店の二階へと帰った。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加