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「だ、……だ、」
大丈夫ですか、と、云いたいのに、どうしても最初の一文字しか出てこない。焦れば焦るほど、言葉はほどけて、煙のように消えていく。
見かねた悠宇君が、大丈夫ですか、と、女性の耳元で叫ぶ。女性はうつ伏せになっていて、顔が見えない。
「大丈夫ですか、あの、大丈夫ですか、」
悠宇君が懸命に呼びかける。その声を聞きつけて、図書館の隣にあるコクリコ洋菓子店の晶良さんが店から出てくる。
「大変!」
切れ長の睛を見開くと、すぐに女性の側に膝をつき、大声で呼びかける。
「大丈夫? どこか具合が悪いの? 返事出来る?」
何だ、どうした、と、洋菓子店の主人である鉄太さんもやって来た。倒れた女性を見て、四角い顔が蒼白になる。
「これは大変だ。救急車、救急車……、」
慌てふためいた手は、携帯電話を取り落とす。
「もう、鉄太君しっかりして!」
妻である晶良さんが叱咤する。鉄太さんは大きな躰を丸めて、携帯電話を拾った。
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