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ゆっくりと、女性が頭を持ち上げた。
「あっ、あなた大丈夫?」
晶良さんが顔を覗き込む。若い女性だった。皮膚に砂粒がくっついている。
「ど……して……」
「え?」
女性の発した呻きに、晶良さんが目を瞬かせる。
「どうして隣りが洋菓子店なんですかあっ。酷すぎるううう!」
そう云うと、女性は子供のように泣き出して、アスファルトを拳で叩いた。その烈しさに、せあら達は一瞬、呆気に取られる。通りがかりの人たちが、何事かと、こちらに注目する。
「あの、大丈夫? 一体どうしたの?」
晶良さんがハンカチを差し出して訊ねる。
「とりあえず、地面を叩くの止めよう。ね。手が痛くなっちゃうよ」
やさしく諭すように晶良さんが云うと、女性は拳を叩きつけるのを止め、ハンカチを受け取った。素直に泪を拭う。せあら達はほっとした。
「……このハンカチ、ケーキの匂いがします……」
女性はハンカチを鼻に押し当て、匂いを嗅ぐようにした。
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