1:ケーキ! ケーキ! ケーキ!

5/65
前へ
/228ページ
次へ
「うち、ケーキ屋だから」  晶良さんが答えると、女性はまた、わっと泪をあふれさせた。「あんまりすぎるううううう」 「わあ、ごめんなさい、気分が悪くなっちゃった?」  晶良さんがおろおろとする。女性はかぶりを振り、しかしハンカチは鼻に押し当てたままだ。四人は顔を見合わせた。 「救急車、呼んだ方が良いのかな?」  鉄太さんが晶良さんに小声で訊ねる。晶良さんは判らないと云う風に、(くび)を横に振った。  女性は頸を巡らせた。せあらと目が合った。 「お願いします。私をそこの図書館へ引きずっていって下さい」 「ひ、」  引きずる?  せあらは困惑する。 「このまま、ずるずると、引きずっていって下さい。そうじゃないと、私は、私の躰は、」  女性は肩をふるわせる。やはり躰に異変があるのだろうか。 「洋菓子店の前を離れたくなくて、いつまでも図書館にたどりつきません!」  図書館は、あと三歩の距離である。せあら達は揃って口を開けたまま固まった。
/228ページ

最初のコメントを投稿しよう!

141人が本棚に入れています
本棚に追加