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「お姉さん、この図書館に来たかったの?」
眼鏡をずり上げながら、悠宇君が訊ねる。
「そうなんです。でも、お隣りの洋菓子店の前を通ったら、躰が動かなくなってしまって」
羞かしそうに女性は答える。
「金縛り……とか?」
女性は勢いよくかぶりを振る。
「躰が、求めてしまうんです」
「何を?」
「ケーキを!」
女性は椅子から立ち上がって、叫んだ。一斉に読書中の客が、せあら達の方を見る。不可ない、と、せあらは焦る。注意しようと、脣を開く。
「お……、」
お静かに。此処は図書館。ありとあらゆる場処の内で、最も静寂を好む場処。
「そうだ」
部屋の奥から、長身の影が現れる。この辺境図書館の主、神だった。
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