1:ケーキ! ケーキ! ケーキ!

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「お姉さん、この図書館に来たかったの?」  眼鏡をずり上げながら、悠宇君が訊ねる。 「そうなんです。でも、お隣りの洋菓子店の前を通ったら、躰が動かなくなってしまって」  (はず)かしそうに女性は答える。 「金縛り……とか?」  女性は勢いよくかぶりを振る。 「(からだ)が、求めてしまうんです」 「何を?」 「ケーキを!」  女性は椅子から立ち上がって、叫んだ。一斉に読書中の客が、せあら達の方を見る。不可(いけ)ない、と、せあらは焦る。注意しようと、(くち)を開く。 「お……、」  お静かに。此処(ここ)は図書館。ありとあらゆる場処の内で、最も静寂を好む場処。 「そうだ」  部屋の奥から、長身の影が現れる。この辺境図書館の(あるじ)(ジン)だった。
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