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「此処はありとあらゆる場処の内で、最も静寂を好む場処。沈黙を守れぬ者は、即座に立ち去れ」
射抜くように、女性を睨む。頸が逆立って見えるのは、きっと気の所為じゃない。
「す、すみません」
と、女性は気迫に押されたように頸を縮める。喰われる、と、思われても致し方のない神の表情だった。
「温室へ行こう」
晶良さんが助け舟を出す。
「そこなら自由に喋っても大丈夫だから」
この私営の図書館で、唯一騒がしく出来る場処が、硝子張りの温室だった。テーブルと椅子もあり、そこで休憩したり喋ったり物を食べたり、自由にすることが赦されている。一階の廊下から扉一枚で出入りするのだが、防音は完璧だった。もちろん、この防音には秘密がある。
せあらと、女性と、鉄太さん夫妻は温室に移動した。図書館の主である神もついてきた。コクリコ洋菓子店もまだ営業時間中だが、女性を放っておけないらしい。悠宇君は閲覧室に残って、読書をはじめた。顔のわりに大きな眼鏡が特徴の彼は、全くこの図書館の利用客に相応しい、完璧な本の虫だった。
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