1:ケーキ! ケーキ! ケーキ!

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此処(ここ)はありとあらゆる場処の内で、最も静寂を好む場処。沈黙を守れぬ者は、即座に立ち去れ」  射抜くように、女性を睨む。頸が逆立って見えるのは、きっと気の所為じゃない。 「す、すみません」  と、女性は気迫に押されたように(くび)を縮める。喰われる、と、思われても致し方のない神の表情だった。 「温室へ行こう」  晶良さんが助け舟を出す。 「そこなら自由に喋っても大丈夫だから」  この私営の図書館で、唯一騒がしく出来る場処が、硝子(ガラス)張りの温室だった。テーブルと椅子もあり、そこで休憩したり喋ったり物を食べたり、自由にすることが赦されている。一階の廊下から扉一枚で出入りするのだが、防音は完璧だった。もちろん、この防音には秘密がある。  せあらと、女性と、鉄太さん夫妻は温室に移動した。図書館の主である(ジン)もついてきた。コクリコ洋菓子店もまだ営業時間中だが、女性を放っておけないらしい。悠宇君は閲覧室に残って、読書をはじめた。顔のわりに大きな眼鏡が特徴の彼は、全くこの図書館の利用客に相応しい、完璧な本の虫だった。
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