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女性の名前は、唯衣子と云った。
「ケーキ、好きなのかい、」
鉄太さんが穏やかに訊ねる。神が仏頂面で腕組みをしている所為か、唯衣子は萎縮している様子だった。
「良かったら、うちのケーキ食べるかい。ご馳走するよ」
「だ、駄目です!」
唯衣子はまた大声を出す。神が煩さそうに眉をひそめる。どうも声量の調節が苦手な人のようだ。
ごめんなさい、と、唯衣子は身を小さくして謝った。
「遠慮することないよ。倒れていたのは、もしかしたらお腹が空いていた所為もあるんじゃない? 違うかな、」
晶良さんの質問に、唯衣子は赤くなって俯いた。
「ね、そしたらみんなで食べようよ。自慢じゃないけど、うちのケーキはすっごく美味しいんだから」
「駄目です……。ケーキは、食べないんです」
消え入りそうな声で、唯衣子は答える。晶良さんは頸を傾げた。
「どうして? ケーキ、好きなんでしょ?」
唯衣子は眉間に力を込めるように、皺をぐっと寄せた。
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