第一話 融けゆく記憶

2/4
前へ
/393ページ
次へ
 ただわたしたちと決定的に違うのは、妖しい魔力を湛えて淡い紫に染まった長い髪。  そして愉快そうに細められた、ぞっとするほど赤い瞳。  彼女は自らを〝カーラ〟と呼んだ。  わたしはそのカーラの宝物を奪おうとした。だからこれはその罰なのだと彼女は言った。  そのカーラの目の前で、ボロボロになったわたしは何もない地面に身を横たえている。  頭がぼんやりとして、うまく思考が働かない。  ただ、体のあちこちから自分の命が流れ出しているのを感じて、早くここから逃げなければと思った。  これ以上血を流したら、たぶんわたしは死んでしまう。 「今日から少しずつ、お前は記憶が()けていく。一度融けた記憶は呪いを解かない限り戻らない。あまりのんびりしていると、自分の名前さえ思い出せなくなって、最後は真っ白になってしまうよ。そうしたら、お前はもう生きてはいられないねえ」 「……」 「どうやったら呪いは解けるのかって? しようがない。特別に教えてやるよ。私はね、この国にいるチャイディという名の王子が憎くて仕方がないんだ。その王子をこの短剣で刺し殺すことができたら、お前の呪いを解いてやってもいい」  カーラはそう言って、倒れたわたしの鼻先に一振りの短剣を放り投げた。     
/393ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加