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乾いた音を立てて地に転がったそれは、ぐにゃりと奇妙な形に刃が曲がった短剣で。
けれどその刀身は青白く、黄金をあしらった鍔には透明の石が嵌め込まれていて、見た目はとても美しかった。
わたしはその短剣に手を伸ばす。体温を失い、震える手にはいつまで経っても柄を握った感触が伝わってこなかったけれど、この剣を放すまい、と心に誓う。
「さあ、それじゃあ私は高みの見物とでも洒落込もうか。自分の記憶と王子サマ、あんたはどっちを取るんだろうね? 楽しませておくれよ、スーリヤ」
そう言って高らかに笑いながら、カーラは去った。その姿はどろっと不気味な音を立て、黒い煙となって掻き消える。
わたしは冷たくなった両手に力を込めて、鉛のような体をどうにかもたげた。
チャイディ。
その名前だけは忘れないようにしなければ。
そう強く念じた先から、いくつも記憶が融け出していく。
そう言えばわたしは、カーラから何を盗もうとしたのだっけ?
*
角の生えた獣が、大地を蹴って馳せていた。
額から伸びる二本の角はゆるやかに湾曲しながら天を向き、錆色の鱗のような皮膚で覆われている。
獣の全身を覆う毛は白く、されど短かった。
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