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第二話 娘と殺し屋
泥の中に沈んでいるみたいだった。
体が重い。息をするのも億劫だ。
周りは深い沼の底のような暗闇で、もがこうとしても腕が上がらない。
助けて。
わたしは呻く。
助けて、――。
そう思いながらようやく伸ばした手が、突然誰かに掴まれた。
そのまま一気に水底から引き上げられる。
「――おい、しっかりしろ」
ようやく息ができた。
はっと目を見開き、大きく息を吸い込んだところでわたしはついに覚醒する。
「大丈夫か?」
――今のは、夢?
そう思いながら浅い息をしたわたしの顔を覗き込んできたのは、一人の若い男だった。
浅黒い肌は、このコンマニー王国の民独特のもの。その額にかかる、色が脱けたような銀髪が美しい。
けれどもわたしは突然見知らぬ男に顔を寄せられて、思わずその場に跳び起きた。
そのまま寝かされていたらしい寝台の上をあとずさり、警戒心を剥き出しにして男から距離を取る。
「あなた、誰?」
そんなわたしの反応に、男はしばらく目を丸くしていた。
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