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まさかここまであからさまに警戒されるとは思っていなかったのだろう。やがて彼は、ようやくこちらの警戒の理由を理解したように寝台から離れると、〝自分は無害だ〟とでも言うように両手を挙げる。
「驚かせたなら、すまない。僕は、その……カーナックという。君をどうこうしようというつもりはない。ただ、ひどく魘されていたから、心配で」
「ここはどこ?」
「塔の町だよ。君は町のそばの宝菓樹の森で倒れていた。……覚えていないのかい?」
宝菓樹の森。そう言われてもすぐにはぴんとこないわたしの反応を訝ったのか、カーナックと名乗った男は眉をひそめた。
そう言えばわたしはカーラという名の魔女から逃れ、塔の町を目指していたような気がする。理由は……そう……覚えている。チャイディという王子を殺すためだ。
記憶がところどころ朧気なのは、魔女にかけられた呪いのせいもあるし、ひどい怪我をして意識が朦朧としていたせいもあるだろう。
……怪我?
そうだ、わたしは怪我をしていた。
どうしてあんなひどい怪我を負ったのか、もうそれすら覚えていないのだけれど、思い出すと体のあちこちで忘れられていた痛みが存在を訴えかけてくる。
「おい、……」
と、途端に自分の体を抱くようにしてうずくまったわたしを心配したのか、カーナックは椅子から腰を上げて手を伸ばしてきた。
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