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けれどその手はわたしの肩に触れる寸前で止まる。触れればわたしがまた怯えると思ったのだろうか。彼は一瞬迷うような顔をすると、すぐにまた椅子の上へと腰を落ち着ける。
「ひどい怪我をしていたから、一応手当てはした。とは言えまだ安静にしていた方がいい。自分の名前は覚えているかい?」
「……。スーリヤ」
「そうか。まあ、さすがにそれくらいは覚えているよな」
そう言ってカーナックは曖昧に笑った。その笑顔には一種の安堵と戸惑い、その両方がないまぜになっているように見える。
とにかく彼に害意がないということが分かると、わたしはようやく落ち着いて今の自分が置かれた状況を整理することができた。
ここはわたしが目指していた塔の町で、怪我はまだ癒えていないが命は助かった。無数にあった切り傷には傷薬と思しい軟膏がすり込まれ、丁寧に包帯が巻いてある。
服もボロボロになったものをまとっていたはずなのに、今は飾り気のない貫頭衣を一枚身につけていた。
袖がないので腕に巻かれた包帯が丸見えなのがちょっと気になる。そもそもこれは彼が着替えさせてくれたのだろうか?
ということは、彼はわたしの…………いや、だめだ。今は考えないことにしよう。そんなことに思考を割いている余裕が、今のわたしにはない。
わたしは未だ鈍い痛みを訴える腕をさすりながら、ぐるりとあたりを見渡した。
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