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何故彼がそれを知っているのかと、背中にひやりとしたものを覚えたわたしに、カーナックは探るような空色の瞳を向けてくる。
「君が呼んでいたんだよ。魘されながら、何度も」
「……」
「それはこの国の王子の名前だね?」
「あなたには関係ないわ」
「関係なら、あるさ」
カーナックの声は落ち着き払っていた。男の人にしてはそんなに低くない声だけれど、今の声は最初に聞いたものよりずっと低い。
それからカーナックは考え込むように、黙って何もない宙へと目をやった。
そんな彼の横顔を見て、わたしは急に恐ろしくなる。わたしがこの国の王子を殺そうとしているなんて知れたら一大事だ。きっとただでは済まないに決まっている。
これ以上余計な詮索はされたくなかった。わたしは自分の秘密を守るために、何とか話を逸らそうと口を開く。
「カーナック」
「……うん?」
「あなたは、誰」
「名前なら、たった今君が呼んだよ」
「そうじゃない。あなたは何をしている人? どうしてわたしを助けたの?」
「僕は――」
尋ねながら、わたしは如才なくあたりに目を配った。
魔女から投げ渡された短剣。それがどこかにあるはずだ。
確か意識を失う前までは腰帯に差していた。けれど今はそこにはない。
きっとカーナックがわたしを着替えさせたときに、どこかへやってしまったのだ。
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