第一話 融けゆく記憶

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第一話 融けゆく記憶

 長い、長い道のりだった。  ボロボロになった衣服をまとって、傷だらけの体を引きずって。  けれどようやく、行く手には天に伸びゆくいくつもの塔が見えた。  塔の町。  象牙色の石を積み上げて築かれた古塔の並ぶあの町が、そう呼ばれていることはまだ辛うじて覚えている。  ここまでやってくる間に、かけがえのない記憶をいくつもぽろぽろ落としてしまった。  今はもう、大切なあの人の顔さえ思い出せない。  覚えているのは、確かにあの人を愛していたという切ない胸の痛みだけ。  あの魔女との約束を果たせば、再び思い出せるのだろうか。  ああ、深く傷つけた足が痛い。  しかしどうしてこんな傷を負ったのだろう?  いけない。  強くそう思うのに、ここに来て、記憶だけでなく意識まで霞んでいく。           * 「お前に呪いをかけた」  と、その魔女は言った。  魔女と言っても幼い頃にわたしが思い描いていたような、おどろおどろしい姿では決してない。  浅黒い肌はわたしたちコンマニー王国の民と同じだし、顔立ちも美しく整っていて、こんな状況でなかったら同性のわたしでさえ見惚れてしまうほどだった。     
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