レンタル奴隷

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冷たい部屋に響く自分の声を耳で感じる。それが途絶えたのは、ガチッ、という音が脳に響いたから。大きく開けた口、それを閉ざさんとするように差し込まれた金属の道具。苦い塊は上下の歯先を食い止め、その間に存在する柔らかいものをつまんだ。 「ゑ」 喉の奥から根こそぎ、無くなった。凄まじい吐き気というか、体の中の全てが引きずりだされた感じ。目玉が上を向いたまま、戻らない。空洞になった喉から床に真っすぐに流れ落ちていく液体に、身体の芯から冷たくなっていく。 気絶したい。なのに、痙攣する全身の筋肉がそれを許してくれない。辛い、気持ち悪い。死ぬかもしれない。 なんで僕が。死ぬ?死んだらどうなる?ああ、僕の奴隷みたいになるのか。全身腐って、臭い臭いをまき散らしながら、汚い顔で。虫に喰われるのか。 いやだ。なんで僕が死ぬんだよ。僕が何をしたっていうんだ。ただ奴隷を買っただけじゃないか。奴隷を奴隷として扱っただけじゃないか。何が悪いんだよ。 「行くぞ」 扉の開く音、コンクリートの床を鳴らす靴の音。首に巻き付く鉄が擦れる痛み。多分、きっと、これから、あいつと同じになる。僕の奴隷と。あの奴隷みたいに、奴隷を買ったやつの元に行く。そして、奴隷として扱われる。何分、何時間、何日、何週間、何ヶ月…期間なんて知りはしないけれど、死ぬまでずっと、ずっと。 もし僕を殺したら、呪ってやる。 同じ目に合わせてやる。     
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