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今日はツイてない。
『はい、これ今日入稿しといて』
パっと手渡された資料と、PCのデータを確認して
高崎ヒナはフムフムとうなずいた。
ここは都内のとある文具メーカー。開発部。
ヒナはこの会社の敏腕デザイナーだ。
デザインの専門学校を出て、右も左も分からずに入社したこの会社で
『ただ絵が好きだ』という一心で日々過ごしてきた。
好きこそモノの上手なれと、昔の人はよく言ったものだ。
ヒナはデザインの知識は乏しかったが、流行を見抜くセンスは抜群だった。
流行っているモノを掴むより、これから流行るモノを見極め、
誰よりも先に仕掛けて流行らせる。
デザイナーの醍醐味。
ファッション業界だけでない。
それは文具メーカーでも同じ事だった。
ただひとつ、ヒナに弱点があるとすれば。
「あーっ!!」
ヒナは慌てて資料とデータをガン見した。
そしてガタガタと震えながら、隣の先輩に囁いた。
「……今から印刷所に送る入稿データなのに…文字間違いが……あああ」
ガックリとうなだれ、机につっぷしながら
ヒナは大げさにため息をついた。
デザイナーとして、商品化にあたって
絶対に注意すべき事。
それは──文字の間違い。データの間違い。
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