〈 2 〉

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「母さん、こっちは連絡しなくてもいいと思うんだ」  昔から察しのいい兄が教え子たちの束を見ながらそう言うと、姉もここぞとばかりに早口でまくしたてる。 「そうよ、兄さんの言う通りだわ。変に気を使わせるだけよ。それにね、もっと言っちゃうと、他の人だって新聞のお悔み欄だけで十分だと思うのよ」  さすがにそれは……、と困り顔の母に向かって姉が更にまくしたてようとしたその時、傍らのスマホが震えた。 「もしもしっ」  みんなの視線が集中する。私は駆け出すように席を外した。 『今から、そっちに戻るから』  電話の向こうで彼の掠れた声がした。 「だからいいって。こっちは何とでもなるんだから」  それは私に対する悪あがき? それとも。 『それと、うちの親も今そっちに向かってる最中だから』  その言葉に、私の胃の腑がぎゅっと萎む。  ただ単に、自分たちの立場を取り繕っただけか。本当に彼は、あらゆる意味で私の期待を裏切らない。 『ああ、でも。親父だけでいいって、言っておいたから』  二の腕辺りをずり上がるぞわぞわ感を、大きく深呼吸して無理やり追い払う。 「そう言って、あなたの言う通りになった事は一度もないよね」  極力、穏やかに言ったつもりだったけれど。 『……ごめん』  彼の声が明らかに萎れている。そんなにきつい言い方になっていたのだろうか。 『あ、ちょっとまって』  誰かと会話する気配が伝わってきた。受話器口に手を当てたのか、くぐもった声しか聞こえないけれど。 『もしもし、またこっちから掛けなお――』  彼から切られる前に、こちらから通話を断った。
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