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光の渦を超えたところにあったのは、ビルの谷間の道と、少し剥げた白いラインが書か描かれた灰色のコンクリートだった。
両側にはガラス張りのなんともレトロなビル。雑多な広告の看板が貼り付けられている。僕等の管理区でビルにあんな無秩序に広告バナーを貼ったら、次の日には管理局の役員がすっ飛んでくるだろう。まさしくアーカイブで見た100年前の東京だった。
「行くぜ!俺が先陣を切る!援護頼むぜ!」
「お供します!鏡磨様!」
鏡磨の声で我に返った。
僕等の返事を待たずに、マグナムとシールドを構えた鏡磨がGスプリッターで街路樹が並ぶ道の上をすべるように飛び、その後ろを曲刀を袖に隠したしづねさんが追っていく。
「あたしたちも行こう!徹君!あたしは左のビルから援護するわ!」
「ああ……じゃあ僕は右から……気を付けて」
「うん、徹君もね!」
ちょっと硬い表情で鏡華が言って軽々と飛び上がる。
Gスプリッターを吹かして僕もビルに飛び上がった。むき出しの灰色のコンクリートの床と建物内に入るためらしきドアがある殺風景な空間。大きな鉄の看板が広場を目隠しするようにそびえたっている。
唐突に銃声が聞こえた。重い銃声が立て続けに響く。鏡磨のガトリングガンか。
同時に誰かがレーダーに映った。赤い警告ラインが視界に浮かぶ。こちらも感知されているだろう。
油断はできない。そう思ったとたんに、銃声が響いて体を弾がかすめた。
「くおっ」
銃で撃たれる、というのは訓練で何度も体験した。ただ初めて撃たれた実弾は、模擬弾とは全く違った。
鉄の看板に次々と丸い穴が開く。完全にこっちの位置は把握されているのが分かった。仕切り直さないと。
慌てて横に飛んで、看板の隙間を抜ける。そのままビルの屋上から飛び降りた。景色が上に流れるように飛んで、耳の横で風切り音がする。
何処か物陰にまで行こうと思ったけどGスプリッターのゲージが切れた。失速する。吹かし過ぎた。
どうにか慣性を活かしてガラスとコンクリートの四角い構造物の後ろに着地する。たしかこれはこの時代の地下鉄の入り口だっただろうか。
空を飛ぶ感覚、落ちる感覚は何度やってもなれない。硬い地面の上でほっと息を吐く
「動くな」
でも、安心したのもつかの間、冷たい声がかかった。
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