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不思議なもので、銃を向けられている、というのはなんとなくわかった。殺気が伝わってくる、というのはよくムービーの中で使われる表現だけど……といってもそういう「健全じゃない」映像は今は少なくなってしまったけど。
自分がその立場になると分かる。殺意を向けられている、というのは、肌で感じる。
「殺したくない」
背筋に汗が伝うのが分かるけど、必死で呼吸を落ち着ける。
真加部師匠が言っていたことだ。絶対的な不利に陥っても自棄にならず心を鎮めよ。隙のない人間はいない。その突破口を探し、決して逃すな。
「……銃を捨てて」
と言ったところで声が詰まった。わずかに殺気が緩む。とっさに地面を蹴って構造物の陰に隠れた。マシンガンを殺気の発生元に向ける。
渋谷駅の看板の裏側にそいつはいる。撃つか……。
「待て、待ってくれ」
引き金を引こうか一瞬迷ったけど、看板の後ろにいる男がマシンガンを上に挙げた。
看板の影からマシンガンとそれを握る手と白い袖口が除く。
マシンガンの銃身を持っていて、撃つ気配は無さそうだ。
「撃つな。いいか?撃たないでくれ」
とりあえずあの角度ではこっちは撃てないだろう。伸ばした手の先にマシンガンを持っているようだ。僕が何も言わないのを肯定の合図と解釈したのか、男が出てくる。
その男は……予想通りと言うべきか……僕だった。
◆
声でなんとなく予想はついていたんだけど……自分と同じ顔の人間を見るなんて体験は初めてだ。鏡の中で動いている自分を見るのとは全く違う。
正直言って服が違っていたのは救いだった。
長い白いマフラーに白いタイトなジャージとスーツの合いの子のような服。
驚いたのは向こうも同じだったらしい。マシンガンを片手にさげたまま僕を見て固まってしまう。
同じ顔の相手と戦うってのは事前情報で聞いていたけど、面と向かってみると何とも衝撃的だった。
「撃つな」
「僕」がもう一度言ってマシンガンを下した。僕もマシンガンを下ろす。
「僕」がにっこりと、多分僕より人懐っこい印象を与える笑みを浮かべて看板の上から飛び降りてきた。
「君は……風澄徹?」
「ああ、そうだけど」
「本当に僕がもう一人いるんだな」
「僕」がそういって首を振って、もう一度、親しげに笑みを浮かべた
「初めまして。僕も風澄徹」
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