眠る人魚姫

2/2
前へ
/14ページ
次へ
「ジュンは明朝到着だから先に休んだら良いよ。ロック忘れないでね。」とヨシキに言われ、ベッドの上に横たわると着替えも出来ずに睡魔に勝てないでいた。静まり返った室内のロックしたドアを音も立てずに開けたら、背後から渚が飛び付いて甘えて来た。「先に私を隣のベッドで抱いて。」邪悪な女は大して好きでもないのに要求してヨシキから離れなかった。「仕方ないな。」と少し嫌そうな声で渚を抱きしめたら「そうだビールを飲もうよ。」と渚は部屋を出てしまい、なかなか戻らない女を待てずに深い眠りについているナナを見て「僕のキスで目覚めないでね。」と言いながら服を脱ぎ捨てた時に渚が「お待ちどうさま。」と入ってきた。「ノックぐらいしろよ。」と小声で叫んだら「起きてしまったら大変じゃないの。」と口に含んだビールを口移しにヨシキに飲ませた。睡眠薬入りビールだった。この後二人の処分に疲労困憊する事が分かっていたから抱かれたくなかった。油断させたかった。静かにドアを閉め、黒の上下のジャージに素早く着替え、外の物置小屋から美容整形外科医から借りたストレッチャーと寝袋を運んだ。そしてキッチンでコーヒーを一杯震えながら飲み干して静まり返った二人の情事部屋のドアを覗き込む様に開け深い眠りに就いたままの裸のヨシキからダウンコートを着せ、ゴム紐のパジャマのズボンを履かせ寝袋に入れストレッチャーの上に乗せた。用意しておいたワゴン車の中に置き、息を切らしながら次はナナを寝袋に入れ、情事の前に眠ってしまったのかと思うゆとりも無く、必死になりながら、またワゴン車に運んだ。そして近くの崖下に二人の靴をではなく、自分の靴とヨシキのを並べて心中に見せかけて、 遺書まで残し、自分自身に別れを告げた。一人ずつ懐中電灯の光だけが頼りで崖から海へ投げ込んだ。急いで車に戻り、そのままあらかじめ予約したホテルにサングラスをかけ、パレリーナのナナとして宿泊し、ジュンには階段から落ちて脚を傷めてバレエは無理かもしれないとフランスに出張する予定をこれ幸いにナナのスマホからメールを打った。いかにもナナらしく装って翌朝知人の美容整形外科医の手術台に横たわりナナになっていた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加