踊れないプリマ

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踊れないプリマ

一ヶ月後には顔だけはナナになりきっていた。ヨシキは妻と離婚できないからあの世で渚と結ばれたいなどとパソコンで打った遺書置いて不倫の果ての心中をした事になっていた。ナナになりすました渚は無関係を主張し、うまく逃げ切っていた。遺体は二体とも海の底か太平洋を彷徨っているか不明のままだった。ジュンには踊れない私と別れてほしいと言ったが、バレエを辞めても君への愛は変わらないからと正式に入籍をしたが、美容整形外科医のマサトには脅迫されていた。「君は殺人犯だよ。二人を殺害した。」と、肉体関係を強要されていて、夫の目を盗んではホテルで密会を重ねていた。顔は同じに生まれ変わったが、筋肉のつき方が一般人とは異なるが、ひと月もレッスンしないとこうなったと夫には誤魔化し、たとえ舞台がダメでもバレエ教室を開いてはと提案されても子供の頃しか習った事はなく、とても教えられないのだから、バレエ界とはサヨナラしたいと言い切った。夫も残念そうに了承し、二人の暮らしを大事にしようとナナを気遣っていた。しかしマサトのしつこい誘いに嫌々ながら指定されたホテルに出向いて行き、まるで奴隷のような扱いを受け、屈辱的な時を過ごし、夜中までも連絡が来て拒絶することなど許されなかった。「俺は知っている。オマエはストレッチャーで二人を運び、あの別荘近くの断崖から投げ落としたんだ。悪魔だよ、オマエは。一生俺の奴隷になるんだ。」とベッドの上で叫ばれ、夫が眠った後まで分からないように家を抜け出し呼び出されたホテルで何度も屈辱を受けなければならなかった。バレエ団の関係者には会わないようにして踊れない元プリマは必死だった。或る夜に例によって気紛れな連絡が入り、夫が寝静まった頃いつものように家を出た。しかし、夫のジュンは物音に気付き目覚めていた。妻はこんな真夜中に一体何処へ出掛けて行くのか不思議に思い後をつけた。ホテルの前でタクシーを降り、夫の車も背後に止まった。二時間ロビーで待っていたら、妻は見知らぬ男ではなく、パーティーで名刺を交換したことのある美容整形外科医だった。ナナと知り合いだったのか、美容整形を受けていて脅迫を受けていたから誘いに乗ったのかと頭は混乱していた。 金曜夜のパーティーで二人で出席をしていたら、偶然にもその男が挨拶をしてきた。ジュンは急用できたと先に会場を後にして二人の様子を部下に連絡させていた。
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