甦る黒鳥

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甦る黒鳥

ナナの初主役の相手だけは悲しみに暮れ、伊豆の田舎に墓があると聞いて真っ赤なバラの花束を御供えに向かった。少し脚を傷めていて温泉で療養しようと次の公演には完治したかった。下田の有名ホテルにバレエ団から予約を入れて貰っていた。和室の部屋に案内され、部屋係にお茶を入れてもらい大浴場へ行き、夕食は部屋食で、食べ始めていたらホテルの女将がやってきた。若女将を連れて丁寧な挨拶をし、二人共和服姿だったが、若女将はナナにそっくりで思わずワインをこぼしてしまった。若女将が「大丈夫ですか?」幸いホテルの浴衣姿だったので別のロングサイズのを直ぐに用意し、新しい料理を用意した。片言の日本語で「ゴメンナサイ、アナタはボクのナクナッタダイスキだったプリマバレリーナにそっくりでビックリしたんです。アナタはバレエオドリマスカ?」女将は「申し訳ございません。お客様、若女将は記憶喪失で海で漁船に救助されたものですから。でも和服を着ても足が内股になりませんから踊れるかもしれませんね。」女将はジョーク好きで、まさかバレリーナとは知らずに「お客様さえ宜しければ小舞台で踊ってみませんか?」と衣装はなかったが、夕食後に団体客が入っている大広間へ案内し、社交ダンスを想像していたら、トウシューズは履いてなかったが、息がぴったりとロシア人ダンサーのウラジミールと華麗に踊ってみせた。団体客からは拍手喝采を浴びた。もしや彼女はナナではないだろうかと女将に相談し、後継者が居なくて、この記憶喪失の若女将をと考えていた女将は残念そうにしていたが、翌朝脚を傷めた事も忘れて都内のウラジミールの家のレッスン場に連れて行き、トウシューズとオーロラ姫の衣装を借りて来て身につけて貰い二人は踊り始めた時に記憶が戻りかけ、頭を抱え込んだので救急車で病院へと運ばれ、完全に記憶が戻り、崖から転落して行き冷たい海を思い出し恐怖に慄いたが、バレエ音楽を聴きながら心穏やかになっていった。
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