眠る人魚姫

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眠る人魚姫

渚は嫉妬に狂っていた。ジュンには別れを告げられ、腹いせに内科医のヨシキと好きでもないのに一夜を過ごしてした。翌朝「僕は妻と別れてナナさんと再婚しようと思っているんた。」とベッドの上のモーニングコーヒーを飲みながら言われ、「ナナはジュンと暮らしているのを知らないの?」と激白され動揺し、是が非でも奪い返したいと言われ、渚もヨシキを取り戻したかったので、「また睡眠薬を使えば良いわ。」と呟き、二人で新春公演の後にと約束し、仕方なく気紛れなヨシキに抱かれていた。 ナナは初めての主役に夢ではないかと思いながらも心強いジュンの後ろ盾を支えに着々と公演当日を迎えていた。王子役は海外から招聘された有名ロシア人ダンサーだった。満員の観客を前に脚光を浴びて、アンコールの拍手が鳴り止まない中、オーナーが舞台で、次は白鳥と黒鳥の二役だよと囁いた。嬉しさで気が遠くなるようだった。幕が下りてもまた主役を踊れる喜びに酔いしれ、見えなくなっている自分自身をまだこの時知らなかった。楽屋で、渚からのおめでとうのLINEが届いていて、下田の別荘でパーティーがあるのでジュンは仕事で後から来る事になっていると嘘をついていた。渚とヨシキとの共犯だった。事実ナナはジュンは海外出張があることは知っていた。ヨシキが運転する車にナナと渚が乗っていた。渚が「ジュンがナナと結婚を決意したと言っていたわ。おめでとう。良かったね。幸せなってね。」とヨシキと二人で御祝いの言葉で油断させていた。ナナはプロポーズも受けていないのに友人達には話していて私には今夜かしらと不思議そうに思いながらも「ありがとうございます。」と嬉しそうな表情を浮かべていた。別荘に着き、料理人もいて、ジュンとナナの部屋を渚に案内され、「私達、今付き合っていて結婚予定なの。ここの湯船広いし露天風呂まであるのよ。のんびりしてね。」とナナを安心させた。ジュンはなかなか連絡がなく、ヨシキからは「彼は到着が深夜になるみたい。」と知らされ、私には何故連絡がないのか少し不安に感じたが、主役を演じたりマスコミが殺到してインタビューされたりの混乱から抜け出したかったので、静かな別荘でくつろげると思ったら疲れが一気に押し寄せて来た。「ジュンは遅くなるから先に三人で乾杯しよう。」とシャンパンを開けた。「ナナさんお幸せに。」の声が今から起こる悲劇はまるで感じられなかった。
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