オープニング

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オープニング

 二〇一八年四月、陽光うららかな春。並木道では桜の花びらが散り始め、それらを暖かな風が柔らかくさらっていく。  そんな中、大学生になったばかりの羽根田(はねだ)千聖(ちさと)は、目の前の巨大掲示板と睨めっこしていた。大学の学生食堂に設置された掲示板には、アルバイトの求人情報がいくつも貼り出されている。とはいえ、やはり家庭教師や塾講師など、大学が奨励するものばかりが占めていた。  教えるというのは大変難しいものだ。いい経験になるだろうが、千聖にはぴんとこない。 (う~ん。もっと私に合ったもの、ないかな……)  ここは、都会でも田舎でもない街。強いて言えば田舎に近いのかもしれないが、電車で二駅先に行けば、そこには夜も眠らない繁華街が待っている。レストラン、ブティック、カフェ――そういった接客業に、千聖は挑戦してみたかった。  第一志望の四年制大学に無事入学できたとはいえ、奨学金制度を利用しても、恐らく家計は火の車だ。千聖は母と二人暮らし。小学二年生の時に父を亡くした。     
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