第四話 パステル・キャンドル

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第四話 パステル・キャンドル

 二〇一八年、六月。外は一気に梅雨めいてきて、雨足は近づくのに、客足は少し遠のいていく。後から入ってきた香奈美はすっかり仕事に慣れ、忙しさも落ち着いてきたので、千聖は平日の休みをとりやすくなった。  そして、遂に『あの日』の休みを申請する時がやってきたのだ。 「店長。二十二日は、お休みをいただきたいのですが……。香奈美には、事前にシフト交替してもいいとのことで、許可をとっています」 「いいよ。あ! 前に言ってた、お母様とのレストランの約束?」 「はい、そうです」 「そっか。楽しんできてね」  麻唯子との外食は、二十二日の金曜日に決まった。リサーチの末、ここだと決めたフレンチレストランに、五月中に予約の電話をしたのだが、既に一ヶ月先まで予約がいっぱいだったのだ。  悟とのことで複雑だったとはいえ、麻唯子との食事自体は、千聖もとても楽しみにしている。テーブルマナーの本も買って、千聖は今、猛勉強中だ。  雑貨店の経営状況も、雷蔵によると悪くはないらしい。ただ、土日の交通費や諸経費がかさんでいるのか、利益はほぼ『とんとん』だということだった。平日は一般客に向けて店を開け、そこで土日にかかる諸費用をまかなっているようなので、雷蔵自身の給与はほぼ出ていないと思われる。  それだけ、狭間世界の客たちを大切にする雷蔵の真意は、未だによく分かっていない。アルバイト初日に、雷蔵の正体について単刀直入に質問したが、あの時はさらっと(かわ)されてしまった。不思議な力を持っているというだけでも、既に一般人とは一線を画す。 (いつか、教えてくれるかな)  イケメン店長の雷蔵が目当てで通う女性客も多く、今もまた、女子高校生に捉まって話を聞いてあげているようだ。誰に対しても優しい彼のことが、千聖は徐々に気になり始めていた。
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