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第三話 七色のチョーク
五月十五日、火曜日。ゴールデンウィークの多忙期も無事に乗り切り、千聖はもう、一人前に働けるようになっている。知春の時、耕太郎の時と、依頼に関わる遠出が続いたのも二回までだった。あれ以来、時間を掛けて遠くに出るような依頼は舞い込んでいない。
『一人暮らしで飼っていたペットに会いたい』、『病院で最期を看取ってくれた、看護師と医師に礼を言いたい』、『家族に会いたい』など、願いは人それぞれ。彼らと関わるうちに、千聖も優しさと、生命力をもらっているようだった。
香奈美はといえば、耕太郎との再会をいい方向に昇華でき、最近では彼との思い出話をよくしてくれるようになった。その時の香奈美は実にいい表情をするので、千聖も、彼女の話を聞くのが毎日の楽しみになっている。
そして、今日は千聖にとって、人生初の給料日だ。四月分だけなのだが、雑貨Hyssopは驚くほどに時給が高いので、いろいろさっ引かれても、給料袋の中に一万円札が四枚も含まれていたのだ。
「ねえ、お母さん。私、初めてのお給料をもらったからさ、今度二人で食事でも行かない?」
「あら、いいの? 嬉しい! どこに行く?」
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