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孤児院からは馬車で移動する事になった。
黒く、美しい光沢を放つ馬車に乗り込むと、向かいに座ったローガンが、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でた。
隣にいるメアリーも優しく抱き締めて来た。
だが、思わず押しのけてしまう。
「あ、あら? どうしたのニーナ」
困惑するメアリーがオロオロとする。
「……」
何とも言えず黙る。
するとローガンが優しく諭す様に言った。
「何か不満な事や、嫌な事があれば遠慮なく言ってくれないか? 僕らは家族だからね」
「そうよニーナ、私何か嫌なことしたかしら?」
優しく諭してくれるが、俺としては恥ずかしくて顔があげられない。
なんせ今さっき思い出した。
俺、風邪をひいてから、数日お風呂に入ってねぇ!!
絶対臭いって!
「……わたし、お風呂、入ってないから、臭い……」
辛うじてそう言うとローガンが噴き出した。
「笑うなんてひどい!」
思わず抗議した。
するとメアリーもローガンを注意するが、その彼女の顔は笑みに溢れていた。
「そうね、帰ったらお風呂にしましょう。お洋服も用意してるのよ」
「メアリーはニーナの返事を聞いていないのに、初めて君を見た時から洋服を買いそろえ始めんたんだぞ」
「あ、もうやめてよ! 仕方ないでしょ、こんなに可愛い子をみたら我慢できなかったのよ!」
「でももし、断られてたらどうするつもりだったんだい? あの洋服」
「え……」
ローガンの何気ない言葉を聞いた瞬間、メアリーが顔色を悪くする。
そして余裕のある座席の反対側へしなだれてしまった。
「無理、ニーナちゃんに拒否されたら生きていけない……」
「ちょ、例えばの話だって! それにニーナはもう僕らの娘だよ!」
「うぅ……ニーナ、これ夢じゃないわよね?」
今にも泣きそうな顔でこちらを覗き込んでくる。
ちょっと貞子みたいになってて怖いとか言えない。
「夢じゃ、ないよ。……おかあ、さん」
何とかして目を見て話そうとして下から覗き込みながら、初めてお母さんと呼ぶと、メアリーの顔色が見る見るうちに良くなった。
「あああああああ!! 可愛い可愛い可愛い! うちの娘天使! 早く一緒にお風呂入りましょうね!」
「ああ、そんな! 僕もお父さんって呼んでくれないのかい!? メアリーばっかりずるいぞ!」
道を行く馬車の中、発狂する両親の声がこだました。
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