初ログイン (八歳児編)

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 孤児院からは馬車で移動する事になった。  黒く、美しい光沢を放つ馬車に乗り込むと、向かいに座ったローガンが、優しい笑みを浮かべながら頭を撫でた。  隣にいるメアリーも優しく抱き締めて来た。  だが、思わず押しのけてしまう。 「あ、あら? どうしたのニーナ」  困惑するメアリーがオロオロとする。   「……」  何とも言えず黙る。  するとローガンが優しく諭す様に言った。 「何か不満な事や、嫌な事があれば遠慮なく言ってくれないか? 僕らは家族だからね」 「そうよニーナ、私何か嫌なことしたかしら?」  優しく諭してくれるが、俺としては恥ずかしくて顔があげられない。  なんせ今さっき思い出した。  俺、風邪をひいてから、数日お風呂に入ってねぇ!!  絶対臭いって! 「……わたし、お風呂、入ってないから、臭い……」  辛うじてそう言うとローガンが噴き出した。 「笑うなんてひどい!」  思わず抗議した。  するとメアリーもローガンを注意するが、その彼女の顔は笑みに溢れていた。 「そうね、帰ったらお風呂にしましょう。お洋服も用意してるのよ」 「メアリーはニーナの返事を聞いていないのに、初めて君を見た時から洋服を買いそろえ始めんたんだぞ」 「あ、もうやめてよ! 仕方ないでしょ、こんなに可愛い子をみたら我慢できなかったのよ!」 「でももし、断られてたらどうするつもりだったんだい? あの洋服」 「え……」  ローガンの何気ない言葉を聞いた瞬間、メアリーが顔色を悪くする。  そして余裕のある座席の反対側へしなだれてしまった。 「無理、ニーナちゃんに拒否されたら生きていけない……」 「ちょ、例えばの話だって! それにニーナはもう僕らの娘だよ!」 「うぅ……ニーナ、これ夢じゃないわよね?」  今にも泣きそうな顔でこちらを覗き込んでくる。  ちょっと貞子みたいになってて怖いとか言えない。 「夢じゃ、ないよ。……おかあ、さん」  何とかして目を見て話そうとして下から覗き込みながら、初めてお母さんと呼ぶと、メアリーの顔色が見る見るうちに良くなった。 「あああああああ!! 可愛い可愛い可愛い! うちの娘天使! 早く一緒にお風呂入りましょうね!」 「ああ、そんな! 僕もお父さんって呼んでくれないのかい!? メアリーばっかりずるいぞ!」  道を行く馬車の中、発狂する両親の声がこだました。  
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