1598人が本棚に入れています
本棚に追加
しばらく歩いて、店が見えてくる。
「おお」
遠目に見ても、人がそれなりに入っているのが分かる。
冒険者風の男女が窓の外から店内を窺っている。
彼らも少し会話をした後、店の中に入っていく。
「私たちも入ろう」
そう言って店の扉をアーリアが開こうとするのを止めて、自分で開ける。
少し不満そうだが、見た目平民の俺の為に扉を開ける侍女がいたら可笑しいので我慢してもらう。
カランカランと、扉に付けた鐘がなり入店を知らせる。
「ようこそいらっしゃいま――」
笑顔で向けようとする従業員のハルト。
すぐこちらに気付いたが、先日のうちから『平民に扮していくから、バレ無いようにしてくれ』と頼んであるため、すぐ表情を立て直し出迎えを続ける。
「いらっしゃいませ」
「見させてもらってもいいですか?」
「ええ、もちろん。どうぞごゆっくりご覧ください」
そう言って店内をゆっくり歩きながら見回る。
広めの店内には、既に十数名の冒険者が武具コーナーに集まっていて、物珍しそうに見ている。
「これは何だ?」
「木……だよな?」
「練習用の道具? なら武器はどこ?」
そんな様子で盾やら両刃刀を手に取って首を傾げている。 そこに一人の従業員が近寄り説明を開始する。
「そちらは我がニーナ雑貨店での自慢の一品ですよ」
「木彫りの棒にしか見えないが」
「ええ、ですがその材料に秘密があります。そちらの武具一部を除いて全て、魔物の素材で作られているのですよ」
従業員が告げると、驚いて武具を眺める。
驚いて手放したりしないあたり、魔物素材の武具に忌避感はないようだ。
やっぱり、トレント木材を嫌っているのはごく一部らしいな。
「へえ、ちょっと試しに振るってみてもいいか?」
「ええ、こちらへどうぞ、中庭に十分な広さがございます」
そんなやり取りを俺以外の客も興味を示したようで、並んで中庭へと進む。
中庭は結構な広さがあり、今回の見学者は余裕を持ってはいれた。
「では、こちらのテスト用の物をお試しください」
そう言うと、冒険者の一人はシンプルに木刀を手に取る。
「軽いな」
最初のコメントを投稿しよう!