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確かに……、お茶を出した従業員の話では、彼は手ぶらだったそうだ。
であれば人身売買にかかわる資料を持ってるとは思えない。
仮に捕まえても、下手をしたらこちらが礼を失した扱いをしたとして、被害を被る事になり兼ねない。
……めんどくさいな。
「私が出て、はっきりとお断りしたほうがいいのでは?」
「やめたほうがいいっすよ。あの手の男は、女の商人を下に見るタイプっす。きっと高圧的に物を言ってきて、気分を悪くするだけっす」
ああ、確かにそんな感じするな。
だから、ハルトが頑なに『私が行きます』と言ってたのか。
しかしこいつがいる間は、俺も店の状態を眺めることができない。
もし売り場で見つかったら、ハルトが必死に追い返そうとしている理由が無駄になる。
「……今日は帰ろうかな」
「それがよろしいかと」
俺はため息を吐いて、思考をまとめる。
「アーリア、とりあえずボンザの言う仕事に関して調べてもらえる? 考えたくはないけど、こうやって何度も内に来てるのを『打ち合わせした』と言い張るネタの一つにされる可能性がある」
「かしこまりました。では数名を奴に付けて、貧民が住む地域に調査を送り込んでおきます」
「ええ、お願い。もし人攫いなんかを見かけてもすぐに手を出さず、連れていかれる先をしっかり調べて、監視者と報告者の二人体制で動いて」
「……よろしいのですか? 捕まった子一人くらいならばすぐ救出できると思いますが」
「一人ならね? でも他にも被害者がいて、その子を助けたことで警戒されて、証拠隠滅で他の子供の命が危険に晒されるのは見逃せないの」
そう告げると、笑みを浮かべてからアーリアは胸に手を当てて恭しく頭を下げた。
「かしこまりました」
とりあえず、今出来るのはこれくらいかな。
「お嬢様、アタシは何をしたらいいっすか?」
「キャロはねぇ……ん~……今はないかな?」
「えー、あんまりっすよ。アタシだってお嬢様のお役に立ちたいっす」
「ありがと。でも、キャロには必要な時にいっぱい働いてもらうから、それまでは体力温存と、すぐお願いできるようにそばにいてほしいな」
そう言って彼女の手を握ると、嬉しそうにキャロは『ハイっす!』と答えた。
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