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ぼそぼそと独り言を呟きながら大河は今日も人通りの少ない道を歩く。
「……ちくしょう、LRだったけどマキシマムナックル(技名)だった……」
今大河がやっているソシャゲ『悠久の翼』というファンタジーゲーム。
マイナーながらも、コアなファンの多いスマホ対応アプリだった。
大河は、公開当日にこのゲームと出会い、何気なくプレイをしてみただけだった。
《よお、どうだったよ》
画面から洩れる若い男性の声。
それに反応し眉間に眉を寄せて悪態をつく。
「うっせぇ、出たには出たけど欲しい奴じゃなかったよ」
ちなみにこれは誰かと通話をしている最中という訳ではない。
この声の主は、悠久の翼に出てくるNPCであり主人公の相棒キャラのソルトだった。
……一応明記しておくが、大河は普段からNPC相手に会話をする危ない奴ではない。
ただガチャを回すと決まって『どうだった』と聞いてくるのでつい返してしまうのだ。
高レアが出れば上機嫌に『おう、中々いいモンでたぜ!』とか、HRすら出なければ『おいソルト、ガチャの中身見せろ、不正じゃねぇのか』とイチャモン付ける位だ。
……何度も言うが、彼はやばい人ではない。
「あ~~……そろそろ帰るかねぇ」
背伸びをして帰宅への道を進む。
今いるのは自宅から二、三十メートルほど離れたコンビニの帰り道。
スマホからの課金は規制がかかったので、マネーカードを買いそのまま課金。
そして爆死した。
しかし彼にとってそれはいつもの事。
重廃課金ユーザーである彼は、月の稼ぎの殆どをぶち込んでいるのだ。
「今月これでいくらだ? ……たしか五十……やめよう、辛くなるだけだ」
金には困っていないので、それに関しては辛さは無いのだが、これだけ回して出なかった事が一番つらい。
「さてと、帰ったら飯食って寝るか。明日何時起きだっけ」
などと翌日の出勤時間を確認しつつ曲がり角に出る。
突然視界は激しく回転した。
「……え」
声と同時に口から大量の血が溢れる。
何度も転がり、地面に身体を打ち付けた後やっと止まる。
……一体何が。
目だけを動かすと近くには大きくへこんだ車が止まっていた。
中から顔面蒼白な男が出てくる。
轢かれたのか。
理解すると同時に大河の意識は沈んでいった。
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