騎士団大会 二日目 前(八歳児編)

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 完全に戦場が大鷲騎士団剣士、黒翼騎士団、大鷲騎士団弓兵といった分れ方をした頃、バリスタ部隊がついに射撃を始めた。  ガシャン、と非常に重い音を立てて大量のつぶてが移動の遅れている大鷲騎士団剣士たちに降り注ぐ。その精度は非常に乱雑で、散弾のように飛び出して大鷲騎士団を上空から襲う。  一つや二つであれば鎧の堅牢さで耐えられるが、それが十、二十、三十、四十と続けていくと倒れて始める者が現れた。  堅牢な鎧に身を包んでいれば刃からは身を守ってくれるだろうが、衝撃ばかりはどうにもならない。  倒れた者達は体を丸めて頭を守ろうと必死になり動きを止めてしまう。  すると追撃が減ったルーファス達はさらにその速度を速め、弓兵たちを肉迫。  もともと乱戦に対応する本来のスタンスであれば、多少の迎撃も出来ただろうが完全射撃特化として鍛えていた彼らはその用意が無く、あえなく敗北を認めることになった。  試合が終わると勝利の歓声の中、俺は真っ先に飛び出し試合相手の剣士たちに治癒を施した。  理由としては観客の反応である。  遠距離から無数の投石というシンプルで分かりやすい戦闘方法は、平民や戦いに出た事のない若手の貴族らにその威力を容易に想像させたのだ。  その結果、恐ろしいだとか怖い兵器だといった少々不安になる感想が耳に届いたのだ。  もしこれで死傷者が出ようものなら、ニーナ商会にも少なからず良くない影響を与えると思い試合終了の掛け声とともに、キャロを引き連れ戦場へ飛び出した。  気を失ったり、負傷した兵を一か所に集めて、先日行った広範囲治癒魔法(アトモスエラルド)を放つ。  その範囲にはちゃんとウチの騎士団も入れているので一石二鳥である。  どうやら深刻な怪我人は居なかったのでほっとしていると、相手の領主や騎士団長が驚いていた。 「な、なぜ治療を? 国から派遣される治癒術師もいるのに……」 「え? あ~……その、あの、勇敢に戦った人に敵も味方もいないでしょう?」  死なれたらウチの評判に関わります、とは言えずそれっぽく言葉を探りながら答えた。  すると彼らは何やら言葉を失った様子で、相手の騎士団長は胸に手を当て頭を深く下げた。  ゲリュド領の領主、ソウスランド・フォン・ブラフォード・ゲリュド伯もまた彼の騎士団長と同じく姿勢を正し、俺に向かって深く頭を下げた。  どうやら彼も、騎士のような性格をした男だったみたいだ。  ちなみに試合終了後アシュレイに聞いたのだが、なにやら俺のうわさが広がっていると情報が入った。  もしや、試合結果を見た人たちが良くない噂を流れているのかと心配したのだ、アシュレイはそれを笑顔で否定した。  詳しく聞いてみると、俺の恐れている悪評などではなくむしろその逆、高評価のうわさだったのだ。  なんでも『試合相手の傷を癒し、その健闘を称え微笑みかける』という行動は、騎士道精神を尊ぶゲリュド伯とその騎士団長にとって非常に強く感銘を受けたようで、様々な場所で『シュミット家のニーナ嬢は、幼い少女でありながら既にその心は気高い騎士だ』と周囲の貴族らに話していたらしい。  めちゃくちゃ恥ずかしい。 「なんで止めないの」 「何故です? お嬢様を称える声を止める理由なんてありませんよ」  アシュレイはニコニコとゲリュド伯の褒め言葉を纏めたリストを眺め『彼は見どころがあります』と満足そうに頷いていた。  ……ハードルが上がるから勘弁してくれ。 
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