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「もともと投射砲は矢を飛ばす兵器でした。ですがそのままでは殺傷力、簡易性どちらにも優れたあの武器は非常に強く危険な武器です。そしてそれを巨大化させるバリスタは、人ではなく城……攻城兵器として使われるのです」
「こうじょう、へいき……ッ!」
一瞬言葉の意味を理解できず、呟きながら考える。
するとミリアリアがサッと顔が青ざめる。
人ではなく巨大な壁に打ち込む用の武器を、歩兵にブチ当てていたのだとやっと気づいた。
一歩間違えれば大参事である。
「今回は飛ばした物が石つぶてでしたから大事には至りませんでしたが、サイズに見合った矢等であった場合、人の体など容易に貫いてましたよ。いえ、下手したら千切れ飛んでましたね。
いえ、石つぶてでも当たり所によっては人の命を容易に奪う結果にもなったでしょう。それこそ治癒魔法なんか間に合わないレベルで。
アレが組み立て式故の不安定さが良い結果を生み出しました。威力が大きく下がってくれていて良かったですね。出なければ今頃大参事でしたよ」
俺の言葉を聞いてルーファスが青ざめた後、その場で両手を床について頭を下げた。
「申し訳ございませんお嬢様。そこまでの物と露知らず……武器の使用許可を出したのは私です。罰するのであればどうか私に」
すると庇われたミリアリアが慌てて、どうか罰は自分にと頭を下げる。
それを見て思わずため息を吐いた。
それに周囲の者はびくりと肩を震わせる。
「とりあえず先ほどの兵器の設計図は? おそらくですがトルティオが一枚噛んでいるのでしょう?」
「……はい」
「きっと彼の事ですから、先ほどの試合を見て自分がとんでもないものを作ったと自覚したはずです。これの事は父様に任せて暫く封印してもらいましょう。少し嫌な手ですが、手回しをしてこれに関して嗅ぎまわる者も厳重に監視しましょう」
俺はアシュレイに視線を投げると、彼は頭を下げ素早い動きで控室を後にした。
数分後代わりにキャロが戻って来る。
事情は彼から聞いていたらしく、珍しくルーファスやミリアリア達にきつく叱っていた。
「わかっているの? 貴方達がやったのは自らの功名心で先走った。その結果、お嬢様がどれほど心を痛められたと思っているの。その上後始末までさせるなんて」
言葉遣いも非常にキツい言い方をするキャロ。
それほど今回の事には怒っているようだ。
普段親し気に会話するルーファスにすら、温度を感じさせない視線で見降ろしていた。
ただ今回の件はキャロの言い分が正しい。
俺は暫く、キャロと途中参加したアーリアの説教で小さくなっていく騎士団を黙って見つめることにした。
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