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そんな話をストーリー仕立てで語られたこともあり、俺は思わず聞き入ってしまった。
まあ、ソーヤ自身が若干脚色じみた口調で語るので、もう歴史の話と言うより紙芝居みたいな感じだったのだがそれはそれでよし。
娯楽という物が少ないこの世界では、この手の胸躍る話は単純に面白いのだ。
気が付けば俺はパチパチと拍手を送っていた。
「そ、そんなに良かったか?」
ソーヤは少し照れながらも聞いてくる。
俺はガタッと立ち上がってしまい両手を握り拳を造りつつ答える。
「すごくかっこいい。苦しい環境でありながらも諦めずに戦って、最後は機転の効いた作戦で敵を見事に打ち倒し、戦場で共に戦った仲間を騎士団として新たに設立というのもすごく良い」
今更ではあるが、俺はこういう冒険活劇的な話が大好物である。
剣と魔法の世界を、知恵と勇気と友情で生き抜く戦士と言うフレーズは、少年漫画に繋がる物を感じる。
まあ、そもそも冒険が好きじゃなきゃファンタジーを題材にしたソシャゲ『悠久の翼』をやる筈がない。
あのゲームも武器や防具を集めるだけでなく、草原に出てはタップ式戦闘方法でフィールドのモンスターを相手に戦う事がある。
時折すれ違いで犯罪マークのついた別プレイヤーから攻撃を仕掛けられたり、逆に玄人プレイヤー助けられたりで非常にリアルなゲームだった。
……ああ、思い出したらまたあのゲームやりたくなってきた。
その世界に来てはいるけど、俺ってば冒険らしいこと全然してないからなぁ……。
ふと、周りが静かになってることに気付き、視線を巡らすとテラスの他貴族らも少し驚いた顔でこちらを見ていた。
――しまった、熱くなり過ぎた上に妄想に浸り過ぎた。
女の体になってからそういう胸アツ展開はご無沙汰だったので、つい熱が入ってしまった。
顔が熱くなるをの感じながら大人しく席に着く。
小さくクスクスと笑く声が聞こえる。
バカにした感じではなく、冒険活劇を聞いてはしゃぐ子供を見てほほ笑む感じなので嫌な思いはしないが、ひたすら恥ずかしい。
「ニーナには我が騎士団の良さが分かるか」
「え、ええ。すごくかっこいい」
改めてそういうと、彼は今までで一番表情を柔らかくしてほほ笑んだ。
「そうか、ありがとう」
「え? あ、うん」
そこから今度はクラインのミスト家が抱える騎士団の話になった。
彼は「ソルダート家ほど物語は無いぞ」とさっぱりとした口調で語った。
騎士団名は煉獄の魔兵団と言うらしい。
おや、騎士団ではないのかと不思議に思っていると彼は口元をニヤリと歪めて語った。
どうやらこの悪そうな顔をするときは、一種のドヤ顔らしい。
それにしてもソーヤ達と会話するのは、気楽でいいね。
他の大人たち相手だと口調を気を付ける必要があるけど、ソーヤ達自身が畏まって喋らなくていいと提案してくれたおかげで、気を張らずに喋れる。
この調子でみんなの話を聞いていこう。
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