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気を取り直して、最後にボルト家であるキールの騎士団の話になったのだが、何やら様子がおかしい。
どうしたのかと問うと、クラインが少し言い難そうになりながらも答えた。
「あ~、キールの家系は騎士団がないんだよ」
「騎士団が無い?」
あれ、でもキールの実家も領地持ちだよな?
それで騎士団がいないってどうやって有事の際に守るんだ?
俺の疑問が顔に出ていたようで、キールがぽつりぽつりと教えてくれた。
「えっと、ウチは冒険者と契約してるから」
「契約?」
「僕の家は、そのあまり剣とかで戦える人が少なくて、どうしても騎士団を作れるほど人数を集めれないんだ」
ソルダート家やミスト家は、歴代の当主の兄弟……いわゆる分家と呼ばれる家系が存在する。
分家として生きる彼らは、家を継ぐ長男以外は基本政略結婚だったり出稼ぎに出る必要がある。
その時、本家が運営する騎士団に配属されることが多いらしい。男性は兵士として、女性は騎士団を支える料理人だったりだ。中には女性が兵士として参加する場合もあるそうだ。
俺もまだ会った事は無いが、シュミット家にも傘下に入っている分家がいくつもあるそうだ。
ただ彼らの殆どは戦闘より治癒に特化した能力で、彼らは騎士団に入る事は無い。
なのでウチの場合は貴族の三男や、傘下に入っているどこぞの商家の三男坊といった、将来家を継ぐことなく普通の平民になる事が決まっている者達が入団している。
しかしそれでも、騎士団を作れるほど人が集まっているのは、一重に歴代の当主の名声や父様に対する恩義といった部分が大きい。
ちゃんと歴史を紐解けば、ボルト家は自らの薬学で英雄を陰で支え、時には敵を持ち得る知識で撃退などもしてきた。だがどうしても薬術師は目立ちにくい傾向があるらしく、それらはあまり知られていないようだった。
その結果、平民から騎士団の参加を募集をかけても、戦慣れしていない騎士団に入るというのは、彼らにとってあまりメリットを感じない。
それどころか負け戦に巻き込まれる可能性すらあるのだ。
そうなると必然的に圧倒的な人手不足となり、騎士団を構成するだけの人数が集められない。という状態になってしまう。
それでも百名弱の騎士入るので、当主たちの護衛位は出来るらしいが、騎士団と言うには無理があるとの事。
それで平気なのかボルト領と心配に思ったが、そこで先程キールの言っていた「冒険者との契約」というのが出て来る。
魔物を狩り、希少価値の高い素材を集める冒険者は、領地を守る騎士よりもはるかに戦闘経験は多い。相手は魔物が多い為どうしても対人戦より対魔物戦という流れになってしまうが、それでも歴戦の冒険者を引き込めたことはかなり大きい。
そんな彼らを集め『有事の際にはボルト家騎士団として戦う』といった内容で契約をしたそうだ。
見返りとして領地内でのポーションなどの割引を行う。
前線で戦う彼らにとって、薬品関係が少しでも安く買えるというのは非常に喜ばしい内容だった。
治癒魔法を使える者も冒険者の中に多少いるらしいが、どうしても魔力量には限界がある上に、シュミット家お抱えの治癒術師団程の効果は出ないらしい。
せいぜい切り傷、打ち身などの軽度のダメージを癒す程度だ。
四肢欠損まで行くと彼らは止血程度の効果しか望めない。
まあ、死なないだけマシというレベルだ。
そんなわけで、冒険者は命を救う中級~上級のポーションを少しでも変えるのであればと契約を結んでいるらしい。
「いざっていうとき逃げられたりは?」
「その辺りは平気。ちゃんと戦時は騎士団として戦うって隷属契約してるから。もし破ったら、強い痛みが襲うはず」
おうふ……意外と怖い契約だった。
キールもかわいい顔しているが、やっぱり貴族の子なんだね。
ちなみに隷属契約は「ボルト家が領地を失った場合、彼らへの契約は無効となる。また、ボルト家が彼らへの契約を不随行の場合も同様である」としっかり約束している為、一方的な主従契約ではないそうだ。
「じゃあ実質的に、冒険者の人達はボルト家の騎士団員なんだね」
「うん、一応……定期的に訓練も開いてるから、いざと言うときに、統率取れないって事は、無いと思うよ」
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