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「中には冒険者を引退した後も専属の騎士として仕えてくれたりもするんだけど、それでも人が足りないから……そういう人は、指揮系統を任せることに、なってるんだ」
相変わらずオドオドとした様子ではあるが、それでも冒険者の話をすると目を輝かせて、訓練の様子などを語っていた。
男の子だもんな、強い人には憧れるよね。
改めて彼を見れば、その体は本当に線が細い。
女の子のような腕と足、腰なんてもう折れそうなほど華奢だ。
服装こそ男性物だが、それゆえにボディーラインが良くわかる物だから、なお細く見える。
隣に並んでも、そのウエストサイズはあまり変わらないのではなかろうか。もっとご飯食べろよキール。
うーん、前世の世界だったら間違いなく男の娘と呼ばれていただろうな。
すると、テラスが再び沸き立つ。
視線を向けると、スクリーンに映っている試合の決着が付いた事による歓声だとわかった。
しまった、話に夢中になって全く見てなかったぞ。
「アーリア、試合はどうだった?」
「問題ございません。一通り目を通しておりましたが、これまでの試合相手に比べると比較的凡庸な相手です。油断なく進めれば問題なく勝てるかと」
よかった、彼女が見ていてくれた。
もしこれで特殊な戦い方をする相手で、その情報を取り損ねていたら問題だったぞ。
もう少し気を引き締めないとダメだな。
「ありがとうアーリア」
「いえ、それよりも言葉遣いが些か崩れ過ぎでは?」
う……確かに、いくらソーヤ達相手には砕けた口調が許可されていても、ここには他の貴族が居る。
もう少しばかり気を使った方がいいかもしれんな。
どうにも言葉遣いの使い分けが慣れないな。
外向き用と、親しい間柄用、あと俺という中身が男の物。
いっそのこと外向きの口調だけを使えば楽なんだが、どうにも父様や母様がそれを『他人行儀』と受け取って寂しそうにする。
かといって、親しい間柄の口調を続けると先ほどのような指摘を受けてしまう。
当然ながら、男口調で話すなんてもってのほかだ。
「ごめんなさい」
素直に謝ると、ソーヤが眉を寄せた。
「むぅ……ニーナにはありのままであってほしいのだが……。そうだな、今後ニーナは多くの貴族を相手に接する機会もあるだろう。俺も出来うる限り協力しよう」
そう言うとソーヤは、大人が居る場では砕けた口調を使わない様に心がけると約束する。
……元々、ソーヤの口調は大人びているので、これ以上どう心がけるというのだろうか。
そんな俺の疑問に誰も気づかず、アーリアはソーヤに頭を下げる。
「お気遣い感謝いたしますソーヤ様」
「いや、俺たちも気が利かなくてすまなかったな。今後もニーナの事を頼む」
「はい、もちろんです」
その言葉にアーリアは自信を持って答えると、満足そうにソーヤが頷いた。
……なんだか、ソーヤのほうが主人らしくない?
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