騎士団大会 二日目 前(八歳児編)

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 しかし、婚約者候補とは面倒な事を言い出したものだ。  アレの厄介な所は『婚約者候補への立候補自体は、相手に宣誓するだけで成立する』と言うところだった。  正式な婚約者であれば当然親同士の承認が必要だが、あくまでこれは立候補。『私は貴方の婚約者になりたい』というポーズを示すだけに過ぎないのだ。  ならば無視すればよいではないか、と思う訳だがそうはいかないとアーリアが告げた。  仮にあの男がその宣誓を俺にしてしまったとする。  すると奴はソーヤ達に並んで、俺の婚約者候補となってしまう。  ここで問題なのは、ソーヤ達と並ぶという事だ。  あの男は子爵、ソーヤ達は侯爵と伯爵。  しかし、これらが候補として横に並ぶことで、疑似的ながらも立場が同列状態になってしまう。  仮にソーヤの父親であるゴルドー候が奴に物申した場合、周りは『息子を婚約者にするため、古き作法に権力を持ち込んだ』と見られかねない。  ……むしろ、改革派の連中はこぞってそこを突っ込むだろう。  となると、候補となった三家の力援護をあてにする事が出来なくなるわけだ。 「……で、でも……そんなの私が断ればいいだけで……」  俺がそう切り返すと、アーリアは首を横に振った。 「婚約者も正式に決まっていない現状、相手に大した非もなく、ただ好ましくないという理由だけで相手を拒否するのは、お嬢様の名……ひいてはシュミット家に傷をつけることになりかねません」  女性側に大したデメリットがないと思われていた立候補制度にも、多少の問題点があったようだ。  男性側はまさに人生を賭けたプロポーズをする代わりに、受ける側の女性はその相手を一人の男性としてしっかり見て答えねばならないそうだ。    ちくしょう。  そういうことか。  つまり奴は俺に宣誓した時点で、堂々とシュミット家に近づく理由を手に入れるわけだ。  何かを言われても『愛する人へのアプローチ』と言ってしまえば、立候補者としての立場が奴を守ってしまい、外部の介入を受けにくくなってしまうのだ。  それどころか、奴はロンベル家の当主。  ソーヤ達も侯爵伯爵の跡継ぎだが、今はまだ明確な権力を持たない子供。  となれば、立候補者の中で最も力を持つのは奴という事になってしまう。  もしそうなったら、奴がどう動くかが分からない。  下手をすると取り返しのつかない事態になり兼ねない。  ……マジでやばいじゃないか。
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