騎士団大会 二日目 前(八歳児編)

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 アーリアを見ると、彼女は僅かに目を伏せた。 「アーリアは知ってたの?」  やっと呼吸が落ち着いてきたので、何とかどもらずに言葉をつなげることが出来た。 「……申し訳ございません」  キャロやアシュレイは知らされていなかったようで、ギョッとする。  どうやら騎士団のみんなと、アーリアたちが結託してこの情報を封鎖していたらしい。  そして、俺へ接触を試みようとするあの男を様々な方法で妨害を仕掛けていたそうだ。  おかしいと思ったんだよ。  あのアーリアが、俺に隠し事をしていたルーファスを責めないんだもんな。  知ってたと思うのが普通だよ。  視線を騎士団に向けるとカイトが目をそらした。  みるとミリアリアとポッドは知らなかったのが皆を見て驚きの顔を上げている。  ……なるほど、カイトは三人のリーダーだから知らされていて、それを彼女たちには伝えていなったのか。  それにしてもあの男、武器の一件といい今回の接触といい外堀埋める気満々じゃねぇか。  あぶねぇな。 「わかりました。とりあえず、みんなが私を守ろうとしてくれていたのは理解しました」  騎士団の皆からホッとした様子で俺を見る。 「聞きたいのですが、私に会いたいと接触してきたロンベル子爵に対して皆さんはどのように答えていましたか?」 「お嬢様はこの試合に神経を注いでおられております。もし御用件があれば、旦那様にお願いします、と」  ルーファスが代表して答える。  なるほど、無難な受け答えだな。 「わかりました。ではそこにこう付け足してください。『私はお父様が認めた方以外とは婚約をするつもりはありません。最低条件、として父様に認められた方のみの立候補の話を受ける』と。アシュレイもこの事を父様に伝えてください。あんな男のと僅かでも繋がりを持つのは本当に嫌なんで」  ハッキリと拒否の言葉を明言しておく。  ここまで俺が特定の人間を毛嫌いするのが意外だったらしく、彼は少しだけ驚いた顔をするが、すぐに持ち直して了承の意を示す。  婚約者候補として立候補する男に、女が条件を出せないなど聞いた事は無い。であれば、俺が前もって提示しておけばある程度牽制になる筈だ。  古きしきたりとやらでゴリ押しされる可能性もあるが、そこは「女の気持ちを無視し、自分の欲を押し付けてきた」とでもいえば相手の言葉は封殺できる。  ついでに一枚のメモを渡しつつアシュレイに指示を出す。  するとアシュレイはすぐに頭を下げ部屋を出て行った。  実は商会を任せているハルト君から聞いたのだが、あの男は俺の店に大人の薬や玩具を持ってきていたようなのだ。びっくりだよ、まさか八歳の子供にそんなもん持ってくるとは。    父様はその事を俺に聞かせるつもりは無いらしく、秘密にするよう言っていたらしいが、俺は彼からしっかり事情を聴いている。  ハルト曰く『あくまで私の主はお嬢様ですから』といい笑顔で言われてしまい、なんともむず痒い気持ちになった。  話がそれてしまったが、そんなものを交渉と称して俺に持ち込もうとする時点で、良くない事をする腹積もりだろう。  そんな奴と立候補とはいえ、関係性を持つのは身の危険を感じてしまうのだ。
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