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さきほどアシュレイに手渡したメモは、奴が持ち込んできた淫猥な品々を書き連ねたリストである。
元々俺がそのリストを覚えるためにハルト君に用意させた品書きだったが、彼からの注意書きも一緒に渡してある。
内容はほとんど『危険人物・間違っても二人きりになってはいけない』と、奴の危険性を細かに書き連ねたメモだった。
察しの良い彼であれば、こんな物を持ち込む男の危険性をすぐ察知して行動に移してくれるはずだ。
アシュレイはそれを受け取ると、先ほどの「追加条件」を父様に伝えるべく珠を持って部屋を出て行った。
……過激な行動に出ない事を切に願う。
場が落ち着いてきたので、改めて深呼吸をして皆を見る。
「皆さんが私を守ろうとして秘密にしてくれたのはわかりました。だけど、私もシュミット家の跡取りとして迎えられた身。守られるだけではなく、守る立場になりたいのです。だから言いにくい事もあるでしょうが、どうか私には秘密はしないでください。共に困難に立ち向かっていきましょう」
声を少しだけ大きく、それでいて遠くに語り掛ける様に意識をして話すと、彼らは大きく頷いた。
とりあえずあの男の対応としては現状維持、先ほど言った一文を追加して答えておく事にした。
仮にそれを無視して、俺に突撃して一方的な宣誓をしてきたらそれこそ『相手を思いやらず、自身の欲だけを一方的に押し付けて来るだけの粗忽物、そんな男の婚約者なんてお断り』とすることにした。
父様もきっと、あの男が俺に接触するのを断固として拒否するはずなので、その辺りは心配をしていない。
あとは、奴が面倒な事をする前に騎士団大会を終わらせ領地に帰りたい。
……正直いえば、あの男が誘拐事件に関与していた事を明らかにしてやりたいし、馬車で薬漬けにした少女と戯れていた事を暴露してやりたかったがそれは出来ない。
誘拐事件の方ははっきりとした証拠がない上に、下手にかかわりを持つと それを理由に近づいてくる可能性すらあった。
主犯であるボンザという商人が捕まった事で、王都での誘拐事件は一応の終結を見せている。
関係者は複数いるそうだが、流石にすべてを洗い出す事は不可能らしく、証拠が残っていた数か所の業者と貴族が捕まったくらいだった。
悔しいが、この件で奴を捕らえるのは難しそうだった。
馬車の一件は、仮にこれを暴露してもその少女達を始末してしまえば、証拠は無くなってしまう。
いくら知らない相手とはいえ、俺の身の安全の為だけに彼女たちの命を危険に晒すのは躊躇われたのだ。
その事をアーリア達に告げると『お嬢様は優しすぎます。そこが良い所だとは思いますが』と何とも言えない顔をされてしまった。
確かに甘いと思う、それでも俺は自分の身の安全を優先して、幼い子供を犠牲にしようとはどうしても考えられなかった。
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