二投

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 自分はと言うと、親から野球を教わりだしたのは自分が2歳、兄が5歳の時で教わり出した年齢が低い分確実にセンスがあるのは自分の方だと言われ続けていたのだが、とにかく体力とやる気がなかった。正直、野球も好きではなかった。  小6までは兄と同じ少年野球チームで野球をやっていたが、中学では他の運動部に入り高校では特に何もせず3年間帰宅部だった。  そして高校卒業後、就職をし一人暮らしを始めた。その代り映えのない日常を変える為に始めたのが、前々から興味のあったキックボクシングと空手だった。  その二つの格闘技は確かに楽しいし、社会で働く事への大きなストレス解消の役に立っているのであるが、最近ではどうしても虚しさを拭えずにいた。 「今になってこそ思うよな、甲子園で投げる投手達がとにかく恰好良い。俺も投手は無理でも高校球児としてグラウンドの上で活躍したかった」  嵐士は少し寂しそうに呟いた後、残っているお酒を一気に飲み干した。 「さて…と、腹も減ったし何か食べるかな」  両腕を大きく上に上げて上半身を伸ばす。そして空のお酒の缶を手に取り勢い良く立ち上がった。  突如襲い掛かる激しい立ち眩み。そしてお酒を飲んだ事による酔いも手伝ってか、嵐士はバランスを崩して背中から倒れ込み 「ウッ!」  後頭部を床に強く打ち付け、そのまま意識を遠ざけていった。
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