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一投
俺は今、甲子園のマウンドの上に立っている。
騒がしかったはずの大声援が聞こえなくなった。額から生まれた大量の汗は頬を伝い顎から地面へと落ちていく。体力は既に限界を超え、身体が言う事を効かなくなっている。
しかし、ボールを持つその指の力は未だ衰えていない。
…あと一球……
8月23日、今日は高校球児達の頂点を決める最後の戦いの日。
甲子園の決勝戦。
マウンドの上に立つ彼はこの聖地で優勝する為に、子供の頃から辛い練習に耐えて来た。全てはこの日の為だった。
彼の昔からの憧れだった甲子園。
野球、高校球児、そして甲子園のグラウンドにマウンド。それ以外には興味を示さず、来る日も来る日も野球漬けだった。
彼は今、高校球児として
夏の甲子園の決勝で
灼熱の太陽の下、大観衆に見守られながらこの場所に立っている。
……最後に投げるボールは…
15年前の夏の甲子園が終わった日の夜。それが彼の運命の日だった。
その時の彼は
36歳だった。
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