五投

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五投

 あの暑くて熱い、夏の激闘から約1ヶ月。3年生のレギュラー陣が抜けた穴をカバーする為に1,2年生達は猛練習を重ね  各校の新チームによる秋季大会が行われた。  習凌総合は『引退した3年生エース』から直に譲り受けた『背番号1』を着ける『1年生エース』の嵐士を筆頭に順調に勝ち進み、見事優勝を果たし関東大会出場を決めた。  そして、その勝利の立役者となった嵐士は、秋季大会の後に行われた2学期の中間試験の数学で  赤点を取り担任に呼び出されていた。 「嵐士! 何なんだ! この数学8点ッてのは!!」 「イヤイヤ、仕方が無いでしょう。だってさぁ、関東大会の事で頭がいっぱいだったんだもん…」 「イヤイヤ、仕方が無いでしょう、そして、頭がいっぱいだったんだもん…じゃない! とにかくオマエは来週の水曜日の放課後に追試だ。そこでも赤点だったら補修で関東大会どころじゃなくなるからな!」 「え~!! ちょっと待ってよ! 頼むよ! 先生は俺の担任だろッ!? …肩書だけかもしれないけどよぉ、その担任の力で何とかしてくれって! 俺を見捨てないでくれよ! お願い! この通り!! 俺はねぇ、先生の事を本当に尊敬してるんだって! だから頼むよ!」 「尊敬どころか…。肩書だとかオマエ……完全に俺の事バカにしてるだろ…」  担任は目の前で両手を合わせ、頭を下げる嵐士の頭頂部を見ながら呟いた。  でも、嵐士が試合に出られないとなると…それもそれで学校としてはマイナスだな…。 「わかった。じゃぁこうしよう。次の日曜日に練習試合があるだろ? そこでノーヒットノーランをやったら俺から数学の先生に追試無しの話をつけてやる」  担任は頭を下げる嵐士に対して、無理難題に近い大胆な提案をした。  はずであったが 「本当!? そんな簡単な事で良いの!?」  今まで頭を下げていた嵐士は顔を上げ眼を輝かせ、口角を上げながら口を開き、歓喜に満ちた大声を上げた。 「……オマエ…練習試合の相手の学校わかってるよな? 夏の神奈川予選で準優勝だった学校だぞ?」 「ハッハッハッハッハ!」  嵐士は担任に背を向け、どことなく不気味な笑い方をしながら職員室の扉を開き廊下へと出て行った。  そして迎えた、穏やかな天候の日曜日 「ストライクッ! バッターアウト! 試合終了!!」 「……アイツ…本当にノーヒットノーランをやりやがった…」  試合の行方が気になり、スタンドのベンチに座り様子を伺っていた担任は、自ら発した安易な提案に泣く事となった。  しかし  そんな追試免除などと言う甘い事は無く、嵐士は次の週の水曜日の放課後しっかりと追試を受けさせられていた。  …畜生、あの眼鏡担任、大嘘付きやがって…。 
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