第4章 信じられない

2/90
1179人が本棚に入れています
本棚に追加
/612ページ
一1─ 宮本という名前は、猪飼(いかい)の旧姓ではないか─── そんな疑問を抱き、速水に尋ねようとしたが、できなかった。 ビルの1階のエレベーターホールに、まだ猪飼がいたからだ。 自宅のベッドに仰向けに寝転がり、中川(なかがわ)美羽(みわ)は今日の出来事を思い出していた。 東間は、猪飼が「みやもっちゃん」と呼ばれるところを見ても、例の女の子が人違いをしたと思っただけで、美羽と同じ疑問は持たなかったようだ。 だから今日、ふたりが話しているのを見てしきりに首を捻っていた。 麻衣子もそう。東間の話を聞いても、猪飼が既婚者であるとは微塵も疑っていないようだった。 かく言う美羽も、ずっと猪飼は独身だと思っていた。 事務の補助として彼女が初めて会社に来た日、隣に立っていた(せき)の左手の薬指には指輪があったが、猪飼はしていなかった。 もちろん、結婚していても指輪を付けない人はいるだろうが、何故だろう、彼女が持つ雰囲気からだろうか。美羽は勝手に、猪飼は独身だと思い込んでいた。 だが─── 「“みやもっちゃん”か……」 白い天井を見つめ、ぽつりと呟く。
/612ページ

最初のコメントを投稿しよう!