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一1─
宮本という名前は、猪飼の旧姓ではないか───
そんな疑問を抱き、速水に尋ねようとしたが、できなかった。
ビルの1階のエレベーターホールに、まだ猪飼がいたからだ。
自宅のベッドに仰向けに寝転がり、中川美羽は今日の出来事を思い出していた。
東間は、猪飼が「みやもっちゃん」と呼ばれるところを見ても、例の女の子が人違いをしたと思っただけで、美羽と同じ疑問は持たなかったようだ。
だから今日、ふたりが話しているのを見てしきりに首を捻っていた。
麻衣子もそう。東間の話を聞いても、猪飼が既婚者であるとは微塵も疑っていないようだった。
かく言う美羽も、ずっと猪飼は独身だと思っていた。
事務の補助として彼女が初めて会社に来た日、隣に立っていた関の左手の薬指には指輪があったが、猪飼はしていなかった。
もちろん、結婚していても指輪を付けない人はいるだろうが、何故だろう、彼女が持つ雰囲気からだろうか。美羽は勝手に、猪飼は独身だと思い込んでいた。
だが───
「“みやもっちゃん”か……」
白い天井を見つめ、ぽつりと呟く。
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