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私は俯きながら話をしたので、紀貴さんがどんな顔をしているか分からなかった。
「――ということです。私はきっと、紀貴さんに飽きられたんじゃないかって思って」
すぐに返事は無かった。
しかしやがて。
「ふふっ」
紀貴さんの笑い声が聞こえた。
思わずその顔を見ると、先程とは打って変わっていつものニコニコ顔だった。理解できない。
「ど、どうして笑うんですか?笑いごとじゃないです!」
紀貴さんは笑うのを堪えているようだった。
「うーん、面白いのと嬉しいのとで胸がいっぱいで」
呆気にとられた。ますます意味がわからない。
呆然とする私をよそに、紀貴さんは話し始めた。
「それはねぇ、大学の友達と同窓会だったんだよ」
「同窓会?でも女性と2人きりだったじゃないですか!」
「それは、瑠奈が見たタイミングがちょうど2人きりの時だったんだよ。友達が僕ら以外遅れていてさ。30分も待ってたんだよ。正直すごい気まずかった」
「……証拠はあるんですか?」
「んー証拠か、ちょっと待ってね。その時の写真がスマホにあるから」
そうして見せてくれたのは、店の中で紀貴さんが友人らと一緒に飲んでいる写真だった。その中に元カノもいた。私が見た時と髪型や服装が同じだった。
「本当だ、服同じ」
真実がこんなに簡単なことだったなんて。
「誤解は解けたかな?」
「……はい」
私はだんだんやらかしてしまったという事の事態に気づき始めた。
盛大に勘違いをしていたのだ。勝手に浮気されたと思って、勝手に落ち込んで1人でずっと泣いていた。
自分の顔がだんだん熱くなるのを感じて下を向いた。
穴があったら入りたいとはまさにこのこと。
「瑠奈、僕に言うことない?」
「ご、ごめんなさい」
顔に大きな手が近づいてきて、横に向かせられた。
「僕を見て、言って」
まっすぐに目を見られた。逃げ場はどこにもない。
私は恥ずかしさと罪悪感で涙目になった。
「ごめんなさい!」
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