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紀貴さんはにこーっといつもの3倍増しの笑顔を見せてくれた。
私はなぜ笑うのかわからなくて不思議がっていたら、突然抱きしめられた。
「紀貴さん!?」
「いやぁ、可愛いなぁ本当に」
「どこが、ですか?」
「うん、だって」
紀貴さんは体を離して私の肩を掴んだまま再び顔を合わせた。
「君は僕に浮気されたと思ってここまで泣いてくれたんでしょう?僕の元彼女に嫉妬もして。だから、それだけ僕のこと……好きってことだろう?」
「……あっ」
私は恥ずかしすぎて石みたいに固まった。どこまでも見透かされている。紀貴さんは私が透明に見えるのだろうか。
なんかもうやけになりたくなってそっぽを向いた。
「ずるいです。私ばっかりこんなバカみたいに泣いて。紀貴さんは私が男の人と2人きりで会っていてもこんな風にならないんでしょうね。」
「……」
今度は優しく抱きしめられた。
「そんなことないよ。僕も瑠奈に愛想を尽かされたと思ったら、きっと君よりも立ち直れない」
いつも余裕しか見せない紀貴さんが私よりも立ち直れないなんて想像できない。
「今日だって。連絡もせずにいきなり君の家に押しかけた。いなかったら夜まで待つつもりだった。本当に」
「そんな事したら、不審者に間違われますよ!」
「そうだね。それこそ僕もバカだろう。でも、君とちゃんと話ができるならそれでもいい」
ぎゅうっと抱きしめらた。
「それにしても、君に元カノの写真を勝手に見せた奴は今度会う時に締めとかないとな」
「見たいって言ったのは私なんです。ごめんなさい」
「それはいいんだ。元恋人って気になるだろうし。ただ、僕は友達に見せるなって言っておいたんだけどね」
「そんなに見られたくなかったんですか?」
「……」
再び体が離れた。紀貴さんはどこか遠くを見て、ためらいがちに話し始めた。
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