215人が本棚に入れています
本棚に追加
「君と出会う前、もう4年くらい前の話なんだけど、その時好きな人がいてね」
その話は初耳だった。
「大学の友達の共通の知り合いだったんだ。よく一緒に遊んだ。僕はその子が好きになって告白したら、振られた」
「振られたんですか!?…あっ」
思わず繰り返してしまった。紀貴さんが告白して振られるなんて有り得ないと思った。
「うっ、繰り返されると辛いな。うん、僕は付き合えない理由も聞いたんだ。そうしたら、あなたの隣にいられる自信がない。元カノさんに比べられたら、私はきっと耐えられないって言われて」
かなり落ち込んでいる様子だった。
「僕は比べたりなんてしないし、君が好きなんだって言ったんだけど、付き合えなかったよ。その後その子とは疎遠になってしまった」
「……」
「もう同じ失敗はしたくなくて、なるべく元カノの話は避けようと思った。写真とかはもちろん見せないように。でも危うく、同じ失敗を繰り返すところだったね」
まさしく、私もその人と同じことを思っていた。
けれど、それは紀貴さんが最も望まないことだとわかった。
「紀貴さん……」
「僕は今も同じ。瑠奈だけを見てる。過去の誰かと比べたりしないよ。そうじゃなきゃ、こんな情けない姿を晒さないからね」
参った、という風に笑っている。
愛おしくて、次は私から抱きしめた。
「嬉しいです。余裕のない姿が見れて」
「僕は恥ずかしいけどなぁ」
「私のほうが今まで散々恥ずかしいところ見せてます。紀貴さんのほうが足りないくらいですからね」
余裕が無くて焦ったり、落ち込んだりしている姿を見るのは付き合って1年経っているのに初めだった。
「体調が悪いのは嘘なんです。ごめんなさい」
「うん。わかってた」
「お詫びに、今からデートしましょう。何をするかは紀貴さんが好きに決めてください。何でも言うこと聞きますから」
「何でも?」
「何でも、です」
紀貴さんは腕を組んでしばらく考え込んだ。そして何か閃いた様子だった。
最初のコメントを投稿しよう!