0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
遊ぼ
小学校に上がってすぐ、家の事情で田舎にある祖父母の家に預けられることになった。
突然の田舎暮らしに馴染めなくて、友達も作れず、学校が終わるとまっすぐ家に戻って一人で時間を持て余していた。
そんな私の前に現れたあの子。
雨降りの日、何もすることがなくて、自室としてあてがわれた部屋の縁側でぼんやりしていたら、ふいにどこからか声をかけられた。
「遊ぼ」
髪形や服装から性別が判断できない。でも、多分同じ年くらいの子。
学校では見かけないから、もしかしたら体の大きい幼稚園児なのかもしれない。
クラスにいても人に話しかけられることなどほとんどなく、同じ年頃の相手と関わりたい欲求を募らせていた私は、その誘いに一も二もなくうなずいた。
相手が家には上がりたくないというので、雨の中、傘を差して私はその子と外で遊んだ。
綺麗な花が咲いている場所を巡ったり、雨蛙が合唱するのを聞きに行ったり、二人で色んなことをした。
本当は毎日遊びたかったけれど、不思議と、雨が降っていない日はその子は姿を現さなかった。
理由を聞いても教えてくれない。でも雨の日には必ず現れて、二人で傘を差して出かけた。
でもある時、私は祖父母にその子と会ってはいけないときつく言われた。
最初は学校で友達ができ、向こうが訪ねてくるから遊びに出かけると思っていたらしい。でもある日相手を見て、あの子とだけは関わってはいけないと言い出したのだ。
とても優しい祖父母で、大好きだから言いつけは全部きちんと守っていたけれど、この件だけはどうしても納得ができなかった。
どうしてあの子と遊んではいけないのか。当然ながら理由を問うた。でも祖父母はそれに答えてはくれず、ひたすら『関わってはいけない』とだけ繰り返す。その推しの強さに根負けし、まったく納得できていないのに私は渋々うなずいた。
それでも祖父母は、私が心配なのか信用できないのか、雨が降ると即座に私の部屋の雨戸を閉めた。
いかにも閉じ込められているという印象の室内に、雨の音だけが聞こえてくる。
その中にふと別の音が混ざった。
最初のコメントを投稿しよう!