慮外

3/5
178人が本棚に入れています
本棚に追加
/45ページ
「すみません――」  と男の声がし、こちらに向かって走ってくる。やはり逃げられたのかと、捕まえたというように手を振った。  そして、その男が近くに来た所で、互いの存在に気がつき、 「石井」 「大浜さん」  と同時に声が出る。 「なんだよ、お前のワンコか。確か、ビーグルだよな」  抱きかかえていた犬の頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振るう。 「そうです」  そっけないのはいつもの事。そう思いつつも顔が引きつってしまう。  犬だってこんなに愛想良く出来るのに、飼い主とはえらい違いだ。 「返してもらっても?」 「お前なぁ」  流石にその態度はないだろう。  抱いたままでいると、石井が手を伸ばし犬を奪うように抱きかかえた。 「なっ、ちょっと」 「ありがとうございました。失礼します」  と頭を下げ、早々と立ち去ってしまう。  残された大浜は、その後ろ姿を見ながら怒りがこみ上げていた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!