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「すみません――」
と男の声がし、こちらに向かって走ってくる。やはり逃げられたのかと、捕まえたというように手を振った。
そして、その男が近くに来た所で、互いの存在に気がつき、
「石井」
「大浜さん」
と同時に声が出る。
「なんだよ、お前のワンコか。確か、ビーグルだよな」
抱きかかえていた犬の頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振るう。
「そうです」
そっけないのはいつもの事。そう思いつつも顔が引きつってしまう。
犬だってこんなに愛想良く出来るのに、飼い主とはえらい違いだ。
「返してもらっても?」
「お前なぁ」
流石にその態度はないだろう。
抱いたままでいると、石井が手を伸ばし犬を奪うように抱きかかえた。
「なっ、ちょっと」
「ありがとうございました。失礼します」
と頭を下げ、早々と立ち去ってしまう。
残された大浜は、その後ろ姿を見ながら怒りがこみ上げていた。
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