記憶を探して

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 バスに揺られて約二時間。  運転手が目的地到着のアナウンスを流し、バスを停車させる。一人分の運賃を支払い、俺は運転手に礼を告げてバスを降りた。  隣町に足を踏み入れると、一面の緑が視界に飛び込んできた。どこを見回しても、山や森が広がっている。木々の良い香りがした。虫が歓迎するかのように鈴のような声を上げた。 「わぁ……自然豊かな町ですね……!」  興奮した様子でキョロキョロと辺りを見回す夏原さん。彼女の周りをくるくると浮遊している氷蘭は、すっかり観光モードだ。  俺は携帯を取り出し、この街の地図を開く。現在地を示す赤い点は、町中からは少し離れているようだった。この町のバス停は此処のみで、駅は東の森を抜けた先にある一つだけだ。  この町に来るのは二度目だが、やはり辺鄙な場所だ。本当にこんな場所に手がかりなんてあるのだろうか。確かに神社とかはありそうな雰囲気を纏ってはいるが。 「とりあえず町の方へ行ってみましょうか」 「はい!」  年相応に笑う夏原さんを連れ、俺たちは町の中心部を目指す。きっと町中の方へ行けば、何かしらの情報は手に入るだろう。できれば、この辺りの神社に詳しい人間が居ることを願う。 「京真、何か面白いものはないのか?」 「ねぇよ。その辺の木でも見てたらどうだ?」 「そんなのつまらないだろう!なんかこう、蹴鞠のような遊びが出来る場所はないのか?」 「蹴鞠ってお前いつの時代だよ。とりあえず黙ってついてこい。役に立ったら遊んでやるって言ってるだろ」  氷蘭は駄々をこねる子供のように頬を膨らませた。俺はそれを横目に歩く速度を速める。あまりのんびり歩いて話していると、真っ先に町へ向かう気満々の夏原さんに怪しまれてしまう。夏原さんは氷蘭の姿を微塵も感じていない様子だし、俺が何もない空間に話しかけていれば頭の可笑しい人間だと思われてしまう。彷徨う妖の一部で有名になっている俺は、既に奇妙な人間かもしれないけど。 「あれ?なんだか向こうの方が賑やかですね」  前を歩いていた夏原さんが立ち止まり、街の方を指差した。まだ町からは少し離れているが、此処からでも町の方が賑わっているのが窺える。人の声や、大音量で流された音楽や太鼓の音が聞こえる。 「あー、そういや祭りの季節か……」 「なに!?祭りだと!?」  
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